タイトルの通りです。包丁を買おうと色々探し回っていたら燕三条に行っていました。
ことの発端は普通に包丁を新調しようという話だったのですが、料理本などを眺めているうちに、包丁には色々あるらしいことと、同じ種類の中でもグレードの高いものがあるらしいことがわかってまいりまして、興味がどんどん出てきた次第です。
最初に包丁を探しに出かけたのが1月初頭だったかと思いますので、都合一ヶ月ほどの放浪でした。その間に勢い余って刀剣美術館に行ったり全く念頭になかった中華鍋を購入したりしていました。それから現役の方の包丁を自力で研いで切れ味をあげまくったりもしました。
包丁を求めてかっぱ橋に繰り出したりしていたのは、同居人と一緒にだったのですが、道具にこだわり出して燕三条まで行くのは自分の趣味です……と、いうのでもないらしく、燕三条行きを提案してきたのもどちらからだったか今や覚えていません。去年も器を求めて山中温泉に行ったのですが、このような旅行を二人でやれるとは思ってもみませんでした。
というわけで包丁への理解を深める前日譚を交えつつ、燕三条に旅行に行った記録をお送りします。基本的には旅行記です。
到着〜藤次郎オープンファクトリー
10時54分着の新幹線にて燕三条駅に向かいました。
長いトンネルを抜けるとそこは雪国であった状態で、トンネルが終わった途端に別世界に踏み入れたような切り替わりを感じます。去年の北陸旅行でも同じ驚きがあったはずなのですが、すっかり忘れておりました。驚きまじりの感動は不意打ちであればこそ成立するものですから、思えば旅の初めから幸運に恵まれていました。
今回の旅の目的である藤次郎オープンファクトリーですが、事前に電話で伺ったところ今日は工場を半分しか開けていないとのことで、両方稼働していれば事前予約のうえで解説付きの案内をしてもらえたところだったので、少々ついていないような雰囲気を感じていたのですが、これが完全に裏返ってこの上ない旅程となりました。振り返ってみれば、トンネルを抜けた頃から、その予兆があったのかもしれません。
工場見学の予定を長めにとっていましたので、見学にあてていた時間が大幅に余る可能性が出てきており、少し勿体無いのではないかということで新幹線の中で旅程を組み替えていました。諏訪田製作所というところの爪切りを作っている会社の工場見学もしたいくらいだったのですが、いかんせん立地的に回りづらく、また、日曜の予定を先にずらしこんでみたりしても工場は基本的に日曜休業のため見学できない状況でした。難解な旅程パズルを解いた結果、レンタカーの利用に踏み切り、彌彦神社へ向かうことを決めました。当初は金額面から電車移動のみで済ませようとしていたのですが、いかんせん藤次郎の次に余った時間で移動できる場所は限られており、比較的近場で興味のあった彌彦神社も車なしでは遠すぎました。車移動できれば、時刻表に合わせずに移動できるというのは大きなメリットにもなり、結果的に移動時間も削れるだろうということで、浮いた時間をもっと浮かせて予定を増やせることにもつながります。
去年まではペーパードライバーもいいところで、これは今もですが車を運転する気が知れないという強い思いがあったわけですが、単独出張で車移動をせざるを得ない状況に追い込まれたりした経緯から、いざとなれば運転できるようになっていたのが功を奏しました。トンネルを抜けた先で雪が積もりに積もっていたのでビビり散らかしていましたが、結局、運転した道は除雪が十分にされていましたし、降雪もありませんでしたので、ナイス判断であったと思います。新幹線で食べる用のおやつに持って行ったラミーを食べていなかったのもラッキーでした。
そういうわけで、燕三条に着いた頃にはレンタカーの予約も無事に済んで、新たな旅程も組めた万全の態勢でした。
お昼ご飯は連れが調べて見つけてくれていた、小嶋屋総本店というへぎそばのお店にしました。こちらのお店は天皇に献上したこともあるとのことです。僕の方はご飯系についてはまともに調べない人間なので、自力では辿り着けなかったかもしれません。駅からすぐ近くで、開店直後に入ったにもかかわらず少し待ったくらいには人気店でした。
お味の方もさすがといったところで、ちゅるんと入ってくるのにもちもちと歯応えがある独特な食感でした。へぎそばというのは海藻を練り込んだ蕎麦で、今まで食べたことがあったかどうか定かでは無いのですが、今回食べてみた感じ10割そばみたいな渋いタイプというよりは、そうめんとかに近い印象です。季節の天ぷらとあわせていただきましたが、ふぐの開きの天ぷらというのがあり、これが絶品でした。肉厚でプリッとしていながら、白身魚らしいあっさりした味わいです。
食後、駅に戻って予約したてのレンタカーに乗車し、出発です。
向かうはもちろん藤次郎オープンファクトリー……なのですが、実はすぐ近くにもお目当てがもう一つありました。西日本を中心に展開するスーパー「LAMU」です。数年前にLAMUの曲が非常に良いということを知り、狂ったように聴いていた時期があります(当時のnote:283のアイドルさんたちにカバーしてもらいたい!|夏目草)。LAMUに入店したのは夕方になってからなのですが、運転してLAMUが出てきたときはさすがにテンションが上がりまくりでした。
天気は曇〜小雨といったくらいで運転に支障が出るようなことはなく、むしろ徒歩ではちょっと辛かったかもしれません。遠景に山並みが見えるくらいの天候ではあって、LAMUだけではなく山の景色にもテンションが上がっておりました。
藤次郎オープンファクトリー
藤次郎の施設としては主にギャラリー・工場・アトリエから成ります。ギャラリーは製品が展示されるように並んでいて実際にそれを買うことができる直売所みたいなところです。工場では量産品を作っていて製造ラインを見学でき、アトリエでは職人が手作業で作っている様子を見学できます。
藤次郎の包丁は量産品が多く、高品質な包丁を比較的手頃な金額で入手できるのが魅力です。量産品だからと言って品質が悪いということは決してなく、手作業には手作業の良さがあるということでアトリエも動いているのだそうです。工場は二つのエリアにわかれているようなのですが、事前に聞いていた通り、この日は半分しか稼働しておらずもう半分は解説も見れないといった状況でした。
見学はアトリエから始まって、工場の方へと流れていく順路なのですが、タイミングよくアトリエには作業している方がいらっしゃいました。ガラス越しに作業を見ながら、その近くにあった解説を熟読していたのですが、熱心に見ている二人組がいると気にかけていただいたようで、「よければ間近でご覧いただいて解説しますよ」とお声がけしてもらえました。一切の解説がないつもりでいましたので、大変ありがたいです。自分たちが他の見学者に比べてだいぶ熱心に解説を読んでいたり質問したりしたようで、職人さんに随分と気にかけていただきまして、あれやこれやといろんな作業を見せてもらえました。工場見学で人がいっぱい来ていたら叶わなかったくらいに充実した時間を過ごさせていただきました。
お声がけくださったのが、少なくとも経験を十分に積んだ地位の高い人で、自分の裁量で作業を進められるおかげで、さまざまな作業工程を見せてくださいました。そのときはあまり意識していなかったのですが、お店の方で他の人から聞いた話などを総合するとどうも親方と呼ばれる方だったようで、一介の見学者相手に融通を利かせてたくさん解説をしていただき、ありがたいどころの騒ぎではありませんでした。
さて、最初にお声がけいただいた場所が、鍛造という工程をする作業場で、薄い直方体と言いましょうか、包丁の元となる金属板を熱して叩いてざっくりと包丁の形に成形していく作業が行われていました。この金属板自体は別の業者の手で作られたもので、最近は素材のレベルが格段に上がっているため、叩いたりせず型をくり抜いて作った量産品でも相当のクオリティーになるとのことです。
良質なステンレス包丁となると、食品にあたる刃の部分には硬い鋼材を用意して、その両サイドを柔らかい材質のステンレスで挟むことで硬さとしなやかさを両立させています。硬さなど金属の性質は基本的に材料によりけりですから、材料のレベルが高ければ必然的に包丁の品質も向上するという寸法です。刃の鋼材に使われる金属で最近人気なのはVG10号と呼ばれる材質で、ある程度の硬さがあるため砥ぐのには時間がかかるものの切れ味が長期間持続するという材質なのですが、そのうえ柔軟性も兼ね備えているため刃欠けしにくいというのが魅力です。そのほかにも硬さや柔軟性などの性質に違いがある鋼材がいくつもあり、銀三やVG2などVG10に劣らず人気の材質があったりします。今挙げたのはいずれもステンレス鋼ですから、錆にも強いうえで優れた鋼材が現代では揃っているということです。
であるとすれば、わざわざ人の手で鍛造する必要はどこにあるのかという話なのですが、職人さん曰く主に二つ理由があります。一つ目は叩いた分だけ粒子が密になるということで、きめ細やかになって刃先がより鋭利になります。粉末ハイス鋼と呼ばれる鋼材があるのですが、これなんかは非常に細かな粒子ですので、切れ味は抜群と聞きます。他方であり得ないくらい硬いので、砥ごうとするととんでもない労力になるということで余程切れ味にこだわるのではない限りはおすすめしにくいようです。他の材質でも叩くことで粒子が細かくなるのであれば、なるほど叩く意味があるというものです。
鍛造する二つ目の理由は、好きな形に整えられるというところにあります。型でくり抜くタイプでは、善かれ悪しかれ型通りにしかなりません。単純にフォルムの問題だけではなくて、叩くことで厚みを好きに変えられるという強みがあります。ということの意味を真に理解したのは、実は、見学を終えてギャラリーの方で店員さんにお声がけして包丁を持ち比べさせてもらったときでした。量産型のものは峰の方から見てみると刃元から刃先まで厚みが均一なのですが、鍛造して作ったものは刃先に向かうに連れて薄くなり、先端は極薄に仕上がっています。その違いを実感されるのは、まず握ったときで、量産型は重みがずっしりと感じられるのに対して、鍛造品は重心がグリップ側に寄って手に収まる感じがあります。端的には圧倒的に軽い持ち心地になり、取り回しやすい雰囲気になります。この違いは比べたからわかったことではありますが、以降は比べなくてもわかるくらい、はっきりとした違いです。そういえば職人さんから説明を受けた時にも、刃元が分厚くて刃先にかけて薄い状態にしているのだと仰っていて、この段階でどういう包丁ができるのかが決まってくるという話がありました。鉄を鍛えるというときにイメージする、あの叩く行為の意味が素材の質を上げるだけではなく、形を作り上げていくということにとっても肝であるという、いわば当たり前の事実に驚かされました。
鍛造はウエハースみたいな形の金属板を包丁に変えていく作業ですから、けっこう手間がかかります。七段階くらいの工程をたどるとのことなのですが、そのうち最初の(たしか)「アゴ出し」と呼ばれる工程をみせてもらいました。包丁の柄におさまる金属部分を中子(なかご)と言うのですが、そこを叩き出していく作業です。どうやってあの出っ張りを作るのかと不思議だったのですが、細い杭みたいな金属製の棒を叩き台に置いてその上に金属板を載せます。包丁で言うとちょうどまな板の上で野菜を切る向きで置き、アゴの柄側に金属の杭をあてがうかたちです。その状態で上からハンマーが叩き下ろされると、窪みができ、窪みから柄側の方が中子になっていくパーツとなります。そこを縦から横からリズミカルに叩いていって、一気に先端が細くなるまで伸ばしておられました。
真っ赤に熱せられた鉄が柔らかいのはイメージがつくのですが、時間経過につれて黒に戻っていって変形しにくそうになってからも叩き続け、一度も炉に戻すことなく一気に中子を作っており、さすがの鮮やかな手際でした。
そのほかにも回転砥石を用いた包丁の研ぎ直しの場面を見せてもらったり、銘を彫るところを見せてもらったりと随分と目をかけていただきました。字を彫るところについては案内を希望した見学者なら見せてもらえるコースの一環のようで、最後に小さい金属に自分の名前を彫ってプレゼントしてもらえました。細かい文字でも流れるように刻んでいって、良いお土産になりました。
彫りながら器用にもお話されていたのですが、包丁職人は全部の仕事をやらねばならず、字が下手でも銘を彫らねばなりません。研ぎが苦手でも研げるようにならねばならず、仕事のバリエーションだけでもかなり色々あるようです。お話ししてくれた職人さんは5年くらい練習してようやく包丁に字を入れさせてもらえたとのことですので、一人前の職人になるまでのどれほどの時間を捧げているのかと思い知らされます。それでも自分はまだまだであると、世の中には化け物みたいな人間がいるものだと仰っておられて、人柄もあいまってすっかりファンになってしまいました。お名前を聞かなかったのが悔やまれるくらいです。
さて、見学をじっくりしましたので、あとはナイフギャラリーの方を見て、あわよくばここで包丁を選びたいという段階です。
これまでも週末ごとにかっぱ橋に繰り出していって、解説を聞いたり包丁を握らせてもらったり、時には試し切りさせてもらったりと悩みに悩んでいましたので、見る目は養ってきたつもりです。
ちなみに、かっぱ橋では釜浅商店の店員さんが色々詳しく教えてくれて、あれもこれも質問攻めにした挙句、包丁は保留にして中華鍋を購入して帰ってきました。釜浅商店の品揃えはどれもものが良く、あれもこれも買いたくなってしまうくらいなのですが、ひとまず中華鍋が大正解でした。理屈は分かるような分かんないようななのですが、ただの野菜炒めでも抜群に美味しくなります。炒めながら混ぜるのにも十分な空間がありますし、どのエリアにいる野菜もしっかり炒められる点で調理しやすさもありますし、煮るも茹でるも揚げるも中華鍋一つでどんとこいという様子で、料理の楽しさと出来が格段に上がっています。また、包丁に関しては貴和美というお店も個人的には大当たりでした。買うつもりなさそうな質問をしてしまったのに丁寧に教えていただけましたし、試し切りもさせてもらえて、セールス感なく楽しくお話できました。ちなみにこちらでは前々から欲しかった砥石を押さえる器具があったので購入させていただきました。良い印象のお店でお話だけ聞いて帰るのは悔しかったので、包丁でなくとも欲しいものを買えて良かったです。
そんなこんなでかっぱ橋に通って経験を積み重ねていったのですが、得られた結論は「どの包丁も十分に良い」という嬉しくも悩ましいものでした。今やどれをとっても正解な自信はあるのですが、逆に言えばこれといった決定打を見つけられなくなっておりました。店内を眺めている間、せっかく色々教えてもらえたことだし、藤次郎で何かを見繕ってくるのがいいかなという気持ちが半分、燕三条を探していればまだ見ぬ一品があるかもしれないという躊躇いが半分でした。
そういうときこそお話を聞いてみるもので、量産品と鍛造して作ったものとで実際どれくらい違うものなのかを質問したのですが、これ本当に聞いて良かったです。
先に書いておいたとおり、鍛造品は厚さが均一ではなく先端にいくにつれて薄くなっていき、持った時の感覚が全く別物になっています。均一な方はずっしりと重量感があるのですが、鍛造品は軽やかで取り回しやすい雰囲気です。鍛造品は先端が紙のように薄く、また、ダマスカス鋼という縞模様がはっきり出る材料の場合は、打ちつけている分、縞模様が波打って表面に見える傾向があるようです。が、やはり持った時の感覚がまったくの別物です。
ここで非常に悩んだのですが、一度頭をすっきりさせるためにも店を出ました。去年、漆器を購入した時もしばらく外にでて時間をおいてから購入したのですが、良いものを選ぶためには一度寝かせるのが吉だというのが本気で選ぶときのスタイルです。というのと、「燕三条の他をあたればまだ見ぬ一品があるかも……」という踏ん切りのつかなさが心に突っかかっていて、地場産業センターという燕三条産の商品を集めている場所があるのを知っていましたから、そこを見てから考えたいという気持ちも大きかったです。この後に、比較的近かった彌彦神社に行ってから、地場産業センターに行って、やはり藤次郎の包丁が良いと決心がついて、戻ってくることになります。
ここまで時間をかけて選んだので最高の結果となったのですが、連れがこれを許してくれる人なのが心底ありがたいです。時間をかけて悩んだ挙句、一回外に出てから戻ってきて、必要なスペックを大幅に超える金額のものを買っても一緒に喜んでくれる人こそ、何よりかけがえないのであると改めて感じます。
旅行計画段階でなんとなく興味はあったものの、アクセスが難しくて断念していたのが彌彦神社でした。るるぶなどの旅行雑誌にも載っている有名な神社で、写真で見る限り雰囲気が良さそうだったので、行けるものなら行きたいと思いつつ旅程には組み込んでいませんでした。
藤次郎の工場が半分しかやっていないと聞いていた関係で導入したレンタカーのおかげで無事にやってこれました。蓋を開けてみれば当初たっぷり時間をとって旅程に組み込んでいた以上の時間、藤次郎に滞在していたわけですが、それでもなお彌彦神社に行けたのは車があればこそでした。
運転していると、遠目にもよく見える大きな鳥居が目に入ってきまして、どうやら両部鳥居という種類の鳥居の中では最大サイズであるそうです。大きさもさることながら後ろに山が控えているのが見事で、鳥居をくぐって霊峰に向かうといった荘厳な趣があります。この日は曇り気味で山頂が雲に覆われていたのが、かえって山が壁のように前に立ちはだかる景色となり圧巻でした。
彌彦神社に着くと駐車場からすぐ境内に入って行けました。良い神社と言いますか、雰囲気の好きな神社の特徴なのですが、境内に入った途端に急に静かになるんですよね。それが外界から隔たった空間に入ったという意識にさせてくれます。手水舎で横を見れば美しく苔むした岩があり、冷えた空気が一層澄んで感じられます。
本殿に向かう参道は両側を背の高い木々が壁をなしていて、広々とした空間ながらも林に囲まれているような印象もありました。正面に見えるのが随神門と言うらしいのですが、本殿へと入る門にあたり、そちらをくぐると急に視界が開けます。本殿が正面にあらわれ、その向こうに山々を臨み、それより上は空が開けています。参道までは上が樹冠が覆っていたのに対して、本殿は両側に背の高い木々が並ぶのみで視界の上半分はまったく開放的です。両側の木々と遠景の山並みとがほどよい高さに並んで目に入ってきて、四方を囲まれていながらこのうえなく開けているという見事な場でした。
その後はゆったりと参拝して御神籤を引いて戻ったのですが、車に向かうまでの短い道のりにも店が並んでいました。見れば店内にこたつが用意してあって、客はそこであたたまりながら、おでんなり甘味なりをいただけるようです。やや急ぎ気味だったのでこたつは断念しましたが、ガラス細工のお店は少し入ってみて、変わった形の風鈴なんかを見て楽しんでいました。
それから参拝の前に目をつけていた和菓子屋さんがあって、そちらも入ってみました。米納津屋というお店で、軒先に出ていたあんころ餅の旗に惹かれて入ったものの、「雲がくれ」というお菓子を購入して出てきました。箱には全国菓子大博覧会受賞の文字が燦然と輝いており、我が家ではこの賞に絶大なる信頼を置いているため、見かけたら必ず買うならわしができつつあります。帯広にある竹屋製菓のそばやき、秩父にある太田甘池堂の古代秩父練羊羹など、美味しさのあまり感動したお菓子たちがあるのですが、これら軒並み全国菓子大博覧会受賞作品であったという経験があり、個人的にも信頼度が高く、昔から開催されている大会でしっかり審査されていることもリサーチ済みでした。全国菓子大博覧会の存在を知ってから時々受賞作品に出会うのですが、よもやここでも出会えるとは。ちなみに今年は旭川で全国菓子大博覧会が開催されるそうで、ちょっと興味ありです。
雲がくれをいただいたのは宿に戻ってからなのですが、なんといいますかふわふわしてて、それでいてしっかりとした感触のある、マシュマロを思い出させる和菓子でした。外観は人工物っぽさあふれる白い立方体で、中には黄色い球体が収まっていて一口齧ると断面に丸く黄色が現れてきて、なるほど「雲がくれ」の名にふさわしい遊び心があります。味に関しても期待通りにめちゃめちゃ美味しくて、中の月部分がいいアクセントになっていました。米納津屋は燕市とお隣の弥彦村の他には新潟市に一店舗だけあるくらいで、このようぶ地元に根ざしていながら全国を張れる一品に偶然出会えるのが旅の妙です。
再びの藤次郎
さて、彌彦神社を出て、藤次郎を通り過ぎて燕三条駅近くまで戻ってきて、地場産業センターに到着しました。駅近なのでとても訪れやすい場所です。ここでは包丁に限らずカトラリーや調理器具の他にも農具なども含めて燕三条の製品がずらっと並んで販売されています。それから三条市出身のジャイアント馬場の等身大パネルもありました。めちゃ大きかったです。他にもマグロ解体用のもはや包丁というより機材くらいの巨大な包丁も展示されていて、めちゃ大きかったです。
カトラリーとかタンブラーとかおろし金とか、見ているとどれも連れて帰りたくなってしまうのですが、今日の第一目的は包丁です。探してみてやはりコレという決定打は見つけられず、むしろ、あれだけ懇切丁寧に教えていただいた藤次郎で買いたいという思いが強くなってまいりました。本当はもう少し長居する予定でしたし、展示コーナーも見応えがありそうだったのですが、藤次郎が空いている時間までに戻ってじっくり悩みたいということで、後ろ髪をひかれながら早々に店を出て、再び藤次郎へ向かうことにしました。この判断の速さは偉かったです。こういう行ったり来たりも車を借りていなかったらできない挙動です。元はと言えば藤次郎の工場が半分やっていないことがきっかけでレンタカー使用の方針に切り替えるに至りましたので、災いを転じて福となすとはこのことです。
なんやかんや片道20分くらいかかるので、移動に時間はとられてしまいましたが、藤次郎のお店はまだまだ営業中でした。お店の人にもう一度、量産品と鍛造品を出していただき違いを確かめつつ、鍛造品の中でも柄が木でできているものと、柄まで金属が入っていて鋲で止められているものとがあるので、それらを比べたりしていました。やはり木の方がカッコよさがある一方で、金属は金属で持ち手に重心がある安定感があります。金額はこのさい関係ないのですが、木の方がこだわりようがある分、お高めにはなり、刃に対して柄の寿命が短くなるので何年も先の話にはなりますが交換の必要も出てきたりします。それはそれでお気に入りの柄を選び直す楽しみだと思うのでデメリットとは思わないのですが、やはり最初に握った時の感動が忘れられず、金属のグリップにすることを心に決めました。
長く使うものですし、職人技へのリスペクトの気持ちと実際に使い続けたい気持ちから、運転しながら鍛造品を選ぶつもり満々になっていました。二度目の来店のときに、他にお客さんがいなかったというのもあるのか、試し切りをさせてもらえました。ジャガイモを持ってきてくれて実際に包丁で切れるのですが、これが本当に凄かったです。型で抜いた量産品の方もめちゃくちゃに切れるんですね。我が家の包丁も砥石で研いでからかなりの切れ味を実現していましたから、ジャガイモくらいなら軽やかに切れるわけです。なので、素材の違いと言っても切れ味そのものよりも、切れ味の持続性や欠けにくさの方に関わってくる方が大きいのだろうと思っていたのですが、切れ味が全くもって違いました。我が家の包丁が「スゥゥー」といくところを工場産の包丁は「スーーーーー」と切れてしまう感じです。引っ掛かりなく刃が下に運ばれていく感じです。それくらい良い。では鍛造品でジャガイモを切るとどうなるかというと、「 」です。他の藤次郎の包丁で「スーーーーー」と切れたものが「 」です。何も無いみたいに切れて、ここまで露骨に切れ味が異なるのかと一瞬で撃ち抜かれてしましました。正直に言って、ツウならばわかるくらいの切れ味の違いかと思っていたのですが、もう全然違います。本当にまるっきり違います。格付けチェックしたら知らなかった人でもみんな選ぶくらい別物です。この感動の後、色々と包丁を持ち比べたりなんなりしていましたが、ここの鍛造品を選ぶということは既に決まってしまっていました。この時は意識していませんでしたが、どうしても見つからなかった決定打がこの試し切りでした。
残る問題は包丁の長さです。これまで使ってきた三徳包丁も研ぎ直してなかなかの切れ味になっていますので、できれば長く一緒に使ってあげたい気持ちがあります。そう考えるとやはり形状の異なる牛刀タイプにするのがよいと考えます。が、ここで店員さんが引っ張り出してきてくれたのが17cmの牛刀で、他の牛刀は18cmなのでやや短めの三徳包丁に近い長さです。これは職人さんがたまたま作った一点ものという話で、そのことを示す「別誂」の銘が入っています。こういうのに非常に弱い。ストーリー的にかっこよすぎる。本当に悩まされたのですが、職人技に驚かされたのが長い方の包丁でしたので、最初の感動に立ち返って18cm牛刀に決めました。
最後に同じシリーズの牛刀で店の在庫をありったけ出していただいて、ダマスカス鋼の模様で好みを選ぶという段階が残っていました。悩んだ挙句また悩むという幸せな悩みなのですが、これは実際けっこうラッキーだったようです。職人が作っているものなので、まとまって数本出来上がっては捌けていってしまうというサイクルがあって、少し前までは在庫もなかったくらいだったそうです。数ある包丁から自分の好みを選べるというのは嬉しいことで、最後まで悩み抜いて最高の一本を持ち帰ることができました。
LAMU
さて、当初は電車移動の予定でしたので、藤次郎ファクトリーを出た後は電車で燕三条駅に戻るところだったのですが、その前にすぐ近くにあるスーパーLAMUに立ち寄ることも想定していました。色々あって夕方になってしまいましたが、無事に念願叶って来店できました。
LAMUとは関西方面で展開しているスーパーチェーンで、なんと言ってもそのテーマ曲がスーパーの曲らしからぬ完成度で、その昔繰り返し聴いておかしくなっていたのは冒頭の方で書いた通りです。曲自体はLAMU公式ホームページからmp3でダウンロード可能ですので、ぜひご視聴ください。
道中でなんだかんだ長かった運転時間もLAMUのテーマソングを流しながらルンルンで過ごしておりました。一緒に旅行をしている連れと、仲良くなっていく過程でURLを送りつけてひとウケ獲得した思い出深い曲でもあります。そんなこんなでショッキングピンクのでっかい店舗に辿り着き、ルンルンで入店したときがちょうどBGMが始まったところで、「あっ! これ! ……っ!」と犬なら尻尾をぶんぶん振るくらいのはしゃぎっぷりを見せてしまいました。感無量です。
なんだかんだ旅行先のスーパーを見るのもけっこう楽しみだったので、けっこうのんびり店内を散策をしていたのですが、量り売りコーナーがあったのが何よりのインパクトでした。これはLAMUの特徴らしいのですが、塩からナッツからチョコからガムから何まで全て2.16円/gで売られていて、自由に袋詰めして良いようになっています。塩だけでもけっこうな種類があって、夢のようです。楽しそうすぎる誘惑には負けるのが正解であろうと意気揚々袋詰めを始めた直後、ふと時計を見ると18時を平気で過ぎています。レンタカーの返却は19時で、その前にガソリンを満タンにして返却する必要がありますから、既にギリギリの時間です。しかし袋詰めは始めてしまいましたから、2分で袋詰めして、二人分の会計をまとめる係とナビに行き先を入力する係とに分かれ、足早に店を出たのでした。ぐっばいLAMU
帰路にはそこそこの車がおりましたが、渋滞こそしていませんでしたので普通の速度で帰り道を走らせていました。レンタル車の燃料タンクキャップの位置は知らないもので、ガソリンスタンドで少々パニクったのですが、有人のところでしたのですべてスムーズに済み、ぎりぎり19時になる前に返却と手続きを全て済ませることができました。総じて車のおかげで色々回れたのですが、色々回れたおかげで予定詰め詰めの旅行となりました。最後は慌ただしくなってしまいましたが、LAMUで詰めたお菓子がほとんどイチゴ麦チョコになってしまった以外は特にトラブルもありませんでした。
その後は駅近の宿にチェックインをし、夕飯の燕三条背脂ラーメンに繰り出します。いかにも地元のラーメン屋な雰囲気ですが、そういうところの方が旅情があるというものです。背脂と言うからにはこってりしたものを思い描いていたのですが、けっこうあっさりめのラーメンでした。ちなみにラーメン丼はやはり金属製で、タンブラーのように中に空気の層を挟んだ断面になっている作りの器を使っていて、外から触る分には熱くなく、食品は冷めにくいという優れもので提供されました。最初は金属加工の町としてのプライドかと思っていたのですが、そうにしては観光地っぽさのない店構えですし、何より機能的です。なぜ他の店でも使わないのか不思議なくらいでした。この器は地場産業センターだったか駅ナカのWINGだったかで売られているのを確認した記憶があります。ラーメンの後に見たから駅ナカの方だったかと思います。要するに自分用に購入可能で、後日Twitter(現X)でその器を使っている人の投稿を見かけたのがタイムリーでした。
夕食後に宿に戻って、購入した包丁の写真撮影会をして、再び丁重にしまってから翌日に向けて就寝し旅の1日目が終わりました。