近親交配と植物

某フォロワーさんのツイートで、人間は近親婚などで遺伝的に不利になるのに植物は自家受粉バンバンしてるのは何故なんだという趣旨の疑問が出されていて、たしかに〜〜と思ったので色々考えていました。

 

ざっくり生物方面で色々勉強してはいますが、この件についてまともに調べたわけではないので、そこそこの知識をもとに想像を膨らませただけの信憑性低い話をすることになります。要するに空想寄りの雑談と思ってもらえればと思います。

 

まず近親交配で遺伝的に重大な問題が起こるというメカニズムについてですが、致死的な影響を与える遺伝子の発現が原因です。(厳密には狭い用法の言葉だったと思いますが)便宜的に問題となる遺伝子を致死遺伝子と呼ぶことにします。

致死遺伝子は別に何種類かのパターンの塩基配列のことを指しているのではなく、原理的には無数にあり得ます。というのは、細胞は不断に分裂を繰り返し、度々オリジナルとは異なる遺伝子が発生します。それが修復されることもあれば、影響もないので蓄積されることもあり、重大な異常であるなら細胞死に至るわけですが、生殖に使われる細胞(子供に引き継がれる遺伝子を持つ細胞)にも遺伝子のエラーは起こり得ます。

細胞は二倍体といって、同じ遺伝情報を母由来と父由来の二つのDNAで統御しているため、片方でエラーが起きて致死遺伝子となっていたとしても、それが劣性であるならばその細胞内では問題なく、分裂後も残ることになります。さて、その致死遺伝子となったエラーですが、別の細胞や別の人間の体内で同じエラーが起きることはまずありません。というのは遺伝情報はまずもって膨大であり、修復も受けず細胞死も引き起こさず蓄積されるエラーがしかも同じ塩基配列上で起きるというのは、ほぼあり得ないくらいの確率になるからです。だから、自分の体内で生まれた致死遺伝子が子孫に残っても、対になる遺伝子が正常なので致死遺伝子は発現しないわけです。が、その致死遺伝子を持ってるには持っていますから、たとえば子供が二人いたとしたらその両方がもっている可能性はグンと上がり、致死遺伝子が両方揃う確率は現実的なものになります。両方そろった場合、そもそも発生がうまくいかないこともあり得ますし、生物的に重大な欠陥をかかえたまま生まれることも十分あり得ます。

 

というわけで、致死遺伝子は誰もが持っているけれども、同じ致死遺伝子を持っているのは赤の他人であれば稀で、近親者だとかなりあり得るため近親婚がマズいという話になるわけです。

ところで、自分の持っている致死遺伝子が発現しないのは対になってる遺伝子があるからですが、そっちの遺伝子が子供に移ることもあり得ます。単純に考えれば二分の一です。我が子が致死遺伝子を持っている確率として考えれば二分の一は大きいと思います。しかしそれは人間だからの話で、魚のように一度に数万レベルで卵を生む場合は別です。5万が半分になっても2万5000は無事です。致死遺伝子を持ってる残りの2万5000も、近親のオスとの受精であったとしても、精子のうち同じ致死遺伝子を持ってるものは二分の一ですから、5万のうち1万2500は致死遺伝子が発現しても3万7500は無事です。

と、いうように、子を生む機会や子の量が極端に多くなれば致死遺伝子はそこまで決定的ではないのではないかというのが一つ目の思いつきです。魚を例に挙げましたが、植物の受粉も一度に大量に行われますから、同じ理屈です。

ちなみに、幼い頃に親しんだ相手には性的に惹きつけられなくなるという効果をウェスターマーク効果と呼び、他の哺乳類や鳥の一部でも観測されると言います。もし魚では見られないならば、近親交配がそれほど不利ではないということにもなるかもしれませんし、単純に近親交配を避けるほどのメカニズムが出来上がったのが進化的にかなり後の方だったということかもしれません。不確定なものが新たに不確定になったのみなので、完全に余談でした。

 

さて、植物が近親交配に強い(と思われる)ことについての二つ目の仮説的アイデアですが、器官がそこまで複雑ではないというものです。

人間の場合は脳という摩訶不思議器官もありますし、肝臓やら腎臓やらの臓器を神経伝達物質やホルモンなどによって異様に複雑な制御がなされています。そのうちどこか一つでも狂えば、どうしようもなく破綻するのは目に見えていますから、エラーが起きてはいけない箇所が多すぎるのではないかと考えます。植物は動物に比べればかなり単純な構造をしています。だとすれば、個体として発生できないというようなレベルの深刻な異常はそもそも起こりにくいという風に考えることもできます。

 

 

さて、しかし……

ここまで書いてみて思い返せば、植物にとっても近親交配は望ましくなく、それを避ける仕組みもあるというのを思い出しました。

たとえば、同じ花の中で雄しべと雌しべがそれぞれ成熟する時期をずらしたりしています。また、アサザなんかは「長い柱頭&短い葯」と「短い柱頭&長い葯」のどちらかの花をつけることで、自分の花に寄った虫が体にくっつけた花粉が自分の柱頭にはつかず、別の花の柱頭につくようにできています。

だから、植物にとっても近親交配は不利であることには違いありません。他方で自家受粉のように積極的に生存戦略に組み込む場合もあるのも事実です。そうしてみると、やはり植物は近親交配に強い方ではあるはずで、その説明を考えるためにも上でつらつら述べておいた二つの仮説には、まだそこそこ期待してもいいのではないかと思ったりしています。