北陸旅行3日目 金沢市街縦横無尽

朝、コインランドリーを使いながら待ち時間でドトールへ。朝食もそこで済まして旅行記をちょいとまとめる。

乾燥までしっかりできていたので、たたむだけたたんで観光へ。動きはじめたのが十時手前。なめている。もとい、ゆとりある旅行だ。近江市場が近くにあるので、そちらをぶらり散歩してお土産案などを考えていた。朝遅いので市場の活気ある時間は終わっていた。

事前に興味あるところをリストアップしておいたので、近いところからまわっていくことにした。近いのは金沢文芸館

 

 

金沢文芸館

五木寛之にフィーチャーしている展示や解説だったので何事かと思えば、ここの建物の取り壊しを制して文芸館として再利用したのが五木寛之その人なのだという。本人は金沢出身ではないが金沢で暮らしていた時期もあり、金沢出身の泉鏡花に入れ込み泉鏡花文学賞を立ち上げた主導者でもある。

建物がやけに立派なのはそういう理由で、元は銀行だったらしい。当時は似たような建物が多くあったが、戦争を経ているため今も残っている類似の建物は他に無いというのがガイドさんの述べるところ。先日の地震の影響もなかったという話で、丈夫なのはお墨付きで、残そうという働きかけがなければ今も残っていないともなると、老朽化という自然の摂理よりも人間の側にこうした建物が残るかどうかが委ねられているとわかる。

全体的にこじんまりとした展示で、堅苦しそうな見た目に反して気軽に楽しめる。3階の展示は泉鏡花文学賞の受賞者・受賞作品一覧があるくらいだ。あまり注目していなかったが、名前は知っているくらいの賞で、読んだことがある作品がいくつか展示されていた。ここの本を読んでもいいですよとしきりにおっしゃっていたので、ある種の人たちの図書館みたいな役割もあるらしい。

どうでもいいことだが、そこでもらったプリントに、金沢に来ることを指すのだろう「来沢」という用語があって少し面白かった。意味はわかるが読み方がわからない。らいたく?らいさわ?

 

 

金沢蓄音器館

文芸館の方で様々な文化施設で共通して使える1日入場券を購入したのだが、今日休館のものが多々あった。逆に使えるところ全部行ったらもとをとる意味でも時間的にもちょうどよさそうだったので、目と鼻の先にあるこちらの施設に赴いた。蓄音器もイヤフォンも音質の違いとかが全然わからない素人なので、こういう事情がなければ来ることもなかっただろう。意外にもけっこう楽しめた。

行くとちょうど蓄音器聴き比べ会をしているところで、これがなかなか興味深い。蓄音器といえばレコードを回すところの近くに生えているラッパから音が出るものだが、このラッパ部分をレコードが回っている下の重厚な台座部分に収納することで、観音開きのドアを開けたところの網目から音が鳴る仕組みのものがわりとあった。逆にラッパ部分が人間を捕食できそうなほどデカイのもあって、これはソニー創業に関わった誰だかの家にあったものを寄贈してもらったのだそうだ。肝心の音はやはり笑ってしまうくらいデカい。ノイズが少ないのが特徴と説明を受けたが、ノイズが気にならないくらいの爆音ということではないのかしらとも思わなくもない。が、広い部屋の角にでもおけば立体音響チックになるのかもと思ったりもして、いずれにせよ高級蓄音器の気配がした。

高級なもので言えば、当時の値段でちょっと良い一軒家が買えるくらいと紹介されていたものもあった。笑うしかない。今時は高級ヘッドホン・イヤホンなんかで音質を追求する人も少なくないが、時代を問わず音楽を聴くこと自体にコストと熱意をかける人がいるということだろう。自分なんかは曲に対価を払うというのが自然な発想だっただけに、音楽を聴ける設備自体に生じる対価というのはちょっとした再発見だった。そう考えるとspotifyは曲に払っているのか、聴く環境に払っているのか、人によって捉え方は変わりそうだなと思う。

今でいう音質へのこだわりと言うなら、蓄音器のラッパの素材による違いがそれに対応する分かりやすい要素のようだ。鉄製・紙製・木製の三種類でそれぞれ曲を流せるコーナーがあって、露骨に別の音だったのが面白かった。蓄音器聴き比べの会でも「木製のこれは管楽器の音がきれいに聴こえて……」と言っていたのが本当にその通りで、なるほどであった。解説の方が話し上手で、ビクターのロゴの犬は製作者の飼い犬(ニッパー)で、弟がその様子を絵に描いて有名になったみたいな豆知識も挟んでくれるので、興味ないのに入ってきた無法者でも最後まで楽しめた。

 

 

ひがし茶屋町

行きがかり的に近そうだったので、ひがし茶屋町に行くことにした。

古風な街並みが残る地域で、文字通りの茶屋が多く主食系のものが少ないのが昼食どきの空腹を困らせた。結局街並みを二階から眺めながら、ぜんざいと加賀棒茶のセットで腹を満たした。着物で写真を撮っているカップルがいて、なんかよかった。

土産物の店もたくさんあって、特に陶磁器や漆塗りのものを扱う店が多かったのが個人的に楽しいところだった。何を隠そう陶器が好きすぎて益子まで行った人間だ。店を物色していて初めて知ったのだが、輪島塗の陰に隠れて山中塗というのが石川にはあるらしい。輪島塗は漆を何重にも塗って頑丈にしているのが強みだが、真っ黒で木目がわからなくなり価格もかなり高くなるのがネックなところ。これに対して山中塗は漆ではなくウレタンなどを使っているため、木目がはっきり残った状態で完成としている。耐久性としては輪島塗に劣るが、見た目を楽しめることと価格をかなり抑えられる点に強みがある(後日理解が新たになるのだが山中塗は別にウレタンだけを使うのではない。伝統工芸なのだから当たり前だが漆を使うものもある。しかし輪島ほどがっつり塗らないため木目を楽しむ余地がある)

塗りの違いはこういうところにあるのだが、山中の凄みとして木を削り出す技術があげられるのだそうだ。木の塊をろくろのようなもので回して鑿を当てて削り出す技術が卓越したものであるという。実物を持ってみて感じる両手へのフィット感も絶妙なものであった。なお、山中塗に関しては後日談がある。

 

 

徳田秋聲記念館

寡聞にして知らなかった作家。泉鏡花室生犀星とならんで金沢出身の三大作家として挙げられる。尾崎紅葉に師事したり漱石に高く評価されたりという人で、3人ともそういう時代の人だ。ちなみに全員分の記念館があり、泉鏡花記念館を楽しみにしていたのだが、地震の影響で休館になっていた。外壁も一部崩壊していて被害は大きそうだった。頑張れ……。

徳田秋聲は生涯ずっと金沢にいたわけではなく、当時の文筆者が多く集まっていた文京区本郷に居を構えていて、今も自宅は残っているらしい。めちゃめちゃ大学の近所だった。嘘でしょ? さすがに真横を通ったことはない、とも言い切れないくらいの場所で、その辺から来た僕と金沢からその辺に行った文豪とが交わるのは数奇なもので、名前も知らなかった反省も兼ねてお土産コーナーで一冊買って帰ることとした。記念館で出版している文庫があったので、せっかくならそのシリーズで「爛」を買ってきた。旅の道中で読むための本は持ってきたのだが、まぁよし。

 

 

にし茶屋街

ひがしと比べるとあまり行く人がいないらしい。ひがしも小さいエリアだったが、にしは一層小さい。忍者用具専門店なんてものがあり、奥で手裏剣を投げられると聞いたので飛びついて投げてきた。的の真ん中に当たると景品があったらしいが、5回中2回的に当たったまでだった。残念。だが、刺さりはしてくれて刺さったときのボスという音はちょっと気持ちいい。肘から先の動きで投げると成績が良さそうだが、それ以上に手首から先のスナップを使って回転させることを意識すると刺さる感じがする。もうちょっとやりたかったかも。あとNARUTOで知ったクナイは苦無と表記されていて、思った以上に暗器だった。

店の人たちが雑談しているのが聞こえたのだが、蓮ノ空のファンがこの前の土日で金沢に観光に来てくれたという噂に「ありがたいよね」とこぼしていた。個人の意見でしかないけれども、現地の人の口からそういうことが聞けるのはやっぱ違う。

 

 

室生犀星記念館

ここまでけっこう遠かったのだが、徒歩で来た。途中に兼六園やら21世紀美術館やらがあったのを全部素通りした。

室生犀星はちょっとだけ読んだことがある気がするのだが、正直言って覚えてない。たぶん刺さらなかったんだろうなと思いながら、展示を見ててやっぱりピンとこなかった。誰かに解説とかしてもらってたら気まずくなってた気がする。そういう意味でのんびり一人で見れたのはよかった。

生まれたのがちょうど記念館のある住所のエリアで、生後すぐ寺に預けられ私生児として育ったらしいのだが、その寺が帰り際普通にあってびっくりした。そういえば寺ってかなり古くからのものでも残っている。金沢文芸記念館の話ではないが、神社仏閣は建物の中では残りやすい方なのだろう。なんとなく壊すの怖いし。

 

 

もりもり寿し

匿名ラジオで金沢旅行の話をしていたので、必然と予習になっていたのだが、回転寿司は絶対に食べたくて目をつけていた。本店らしき場所は改装のため長期休業中らしく、遠路はるばる駅前までさらに歩いた。

超うまかった、かというと期待値が上回ってしまった感が否めない。回転寿司の金額ではなく普通にいい値段したし、なんなら回転レールは動いてもなかったので、予想はことごとく外れたのだが、ノドグロがめっちゃ美味かったのはかなり嬉しい。他のネタとセットになっている握りが手の出せる価格だったので注文したのだが、とろけるというレベルではないほどとろけた。20分くらい食べずに放置しておいたら溶けてシャリしか残ってなかったんじゃないかというくらい溶ける。すごいね、あれ。初めて食べたけど、めったに食べていいものではない。高級魚の名にふさわしい。

ついでに匿名ラジオで出てきたものは他に corpus minor #1、結ばれた足、OMO5があって、歩いてたら全部遭遇できた。徒歩移動の妙である。